コロナ禍で傷んだ経済を立て直すために取られている政府の観光振興策「Go To キャンペーン」は医療現場に負荷を与え続けています。
欧州もバカンスシーズン後の感染者急増が問題になりましたが、冬期に入り日本も同じ失敗を繰り返しそうです。経済を回していかなければ失業休業で社会的に生きていけない人が出るから仕方ない、という論法で政府も国民も感染増加に納得してしまっている雰囲気がありますが、感染拡大を必要な犠牲と割り切ってよいでしょうか。

感染制御ができない地域は経済活動が確実に止まります。
皮肉にも強力な私権抑制政策で感染封じ込めを行い、経済活動をいち早く再開、正常化の軌道に乗せた中国のGDPが劇的に回復し、世界で一人勝ち状態になっています。あるシンクタンクの報告で、中国に代表されるデジタルレーニン主義を掲げる強力な社会統制がコロナ禍では、経済との両立という利点から世界中で急速に広まりつつあるという分析があります。
「生命の安全安心が担保できて経済を回せるなら、監視社会になっても全体主義化しても仕方ないし、生きていけるのなら別にそれでもいいじゃないか。」
これは戦前のドイツでワイマール共和制が機能不全に陥り、ナチスドイツが台頭してきた時の社会の雰囲気と似ています。
感染拡大に耐えきれない東欧やアジアでは特にその傾向が鮮明になっています。

仕事や学業など社会生活を送っていく上で不可避な環境で気をつけていても病気になってしまう場合と自分の不注意や遊興のために病気になるのとでは消費される社会資源としての医療の使い道の意味合いが全く変わってしまいます。

群馬県も感染拡大地域である東京と沖縄への移動を制限するよう勧告がでていますが、過日思わぬところから連絡を受けました。電話の主は沖縄の病院で新型コロナウイルス感染症の患者さんの診療にあたっておられるドクターからでした。沖縄に観光旅行に来ていた人が現地滞在中に発病し、新型コロナ関連肺炎でこれから入院するのだが、本人の容態が悪く病歴が十分に聴取できない、持ち物のなかに当院の古い診察券があったが、当時のことが分かれば教えて下さいとの依頼でした。

話の中で、沖縄県は産業の多くを観光と駐留米軍基地に依存しているので、地元住民はある程度は割り切っているものの、ただでさえ医療資源の乏しい沖縄で、地域の病床を削つて新型コロナウイルス感染対応のための病床を確保して居る中、発病した観光客のために地域病床が占有されてしまうこと、その結果として地元の必要な人が医療を受けられない実質的な医療崩壊が続いていることを本土の人はどう思っているのだろうかと話しておられました。

沖縄問題の根深さを改めて認識するとともに、地元の方たちはコロナ禍での本土との医療格差を苦々しく思っていることを知りました。
感染症の最前線で治療にあたるドクターのやるせない矛盾に日々直面しなければならない心労を考えると、発言の重さに返す言葉がなく、「私たち皆のために日々ありがとうございます」と電話の前でただ頭を垂れ、感謝の言葉を繰り出すのが精一杯でした。

第1波の際、観光を兼ねた医療ツーリズムが盛んなマレーシアやタイでも感染症に対して医療病床を地域のためにどのように有効活用するか問題になったそうです。病床はあるが地元の人のためのものではない、外貨を落とす外国人のための医療資源という位置づけの医療機関も多く、疑問の声が上がったそうです。

日本の場合、国や自治体は地域の人口構成をもとに地域医療計画で医療資源の整理を進めてきましたが、今回のような新興感染症に対しての備えは部分的な計画策定に止まっていたというのが実際のところです。
コロナ禍に伴う病床不足は、地域の病床は誰のためのものかという問題を改めて浮き彫りにしました。

感染制御ができずに、医療崩壊が起きる地域は私たちの地元かもしれませんし、病気になっても入院ができない現実は明日起こるかもしれません。
修学旅行先を県内に留める学校が増えていますが、社会的にも賢明な処置と考えます。出先で病気にならないことは、自分を守るだけでなく、二次的な医療崩壊を防ぐことで出先の地域の住民の健康も守ることを今一度肝に銘じてください。